ボストン日本人研究者交流会 (BJRF)

ボストン在住日本語話者による、知的交流コミュニティーです。

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2024

第215回 講演会

日時: 2024年5月18日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E52-164
「経済安全保障と産業政策ーどのようにサプライチェーンの強靭化を実現するのかー」

植田 隆太 氏

ハーバード大学ウェザーヘッドセンター


グローバリゼーションの進展は経済成長と豊かさをもたらしてきましたが、グローバリゼーションの進展による複雑なサプライチェーンは、コロナ禍や国際情勢の変化により、重要な物資の供給途絶という形で、私たちの生活に大きな影響を及ぼしました。一部の医薬品・医療機器や半導体の供給途絶が大きな影響を及ぼしたのは、私たちの記憶に新しいです。こうした供給途絶に備え、サプライチェーンを強靭化しようとする取組は、「経済」と「安全保障」にまたがる問題であり、近年、「経済安全保障」の一分野として注目を集めています。一方で、「安全保障」のために、サプライチェーンの効率性を過度に損なうことは、国民生活や経済活動に大きな悪影響を及ぼすことになります。 この発表では、こうした問題に理解を深めるきっかけとして、例えば、
• 国家公務員の仕事とはどういうものなのか(簡単な自己紹介)
• 国家公務員の仕事をしながら感じたこと(研究の動機)
• 経済安全保障の概説、サプライチェーンの強靭化で発生するトレードオフの問題(研究の背景)
• 各国の動向や歴史の比較・分析、サプライチェーンの強靭化と経済合理性を両立するための課題と方向性
などを概説的にお話ししたいと思っています。


ゲノム科学による精密医療への挑戦

谷川 洋介 氏

Computational Biology Lab, MIT CSAIL


「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある。」(L. トルストイ, 『アンナ・カレーニナ』望月哲男訳. 光文社.)家族に固有の物語があるように、私たちの間にも個性とよべる違いがある。個人差の中には疾患の病態・重症度などに影響を与える要因が含まれうる。しかし、多くのヒト疾患研究では、症例と対照例の平均的な比較がなされ、個人差は十分に扱われていない。個人差を考慮するにはどうすればよいだろうか。私は、個人のゲノム情報や疾患歴など、大規模な生命医療データの利活用に解決策があると考えている。発表では、研究事例として 1. 人類遺伝学による疾患治療標的の同定、2. 疾患リスクの予測モデル、3. 疾患多様性の分解手法を紹介する。最後に、これら要素技術を組み合わせて、個人差をふまえた最適な治療の実現を目指す精密医療をどのように実現するか、今後の展望について議論する。

第二講演

第214回 講演会

日時: 2024年4月20日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E52-164
「先端的個別化医療の社会実装について~医療上の価値と社会的価値のバランスはどのように考えるべきか~」

青木 智乃紳 氏

Fellow, System Design and Management, MIT


2023年12月、FDAは鎌状赤血球症患者を対象としたCRISPR技術を応用した治療薬、Casgevyを承認しました。当該治療薬は、顕著な有効性を持つものの、治療費用は数百万ドルと非常に高額です。このような医療技術の評価枠組みにはどのようなものがあるのでしょうか?また、「イノベーションの評価」とは何を意味するのでしょうか?本講演では、このような高額な個別化医療技術の価値評価の枠組みとして、QALYとICERを用いた効果の定量化を紹介します。さらに、イノベーションの社会的評価と、日米の薬価際等の背景となる日米の医療制度の違い、これら課題に対して日米での取り組み等についても考察します。こうした背景を基に、個別化医療の進展がもたらす希望と、それに伴う高額なコストが医療制度に与える影響について考察し、持続可能な医療制度とイノベーション促進の適切なバランスについて議論を深める予定です。この講演が、自然科学の研究者には科学技術を政策として捉える際のフレームワークの気づきとなり、社会科学の研究者には社会科学的側面から科学技術的事項を取り扱う際の枠組みを考える契機となることを願っています。

第一講演
「心のキャパシティ」と「やりがい」は両立可能か?-マーシャル・ガンツ教授による「Agency」理論の日本社会での実用可能性の検討-

松村 謙太朗 氏

MPP candidate at Harvard Kennedy School Trainee from the Ministry of Foreign Affairs Japan(MOFA)


HKSで数十年続く名物授業「Public Narrative」では、かつてオバマ大統領の選挙参謀として名を馳せた、コミュニティ・オーガーナイザーの祖:マーシャル・ガンツ教授が、人々を巻き込む力を持つスピーチを書き上げるワークショップや、過去のリーダーたちの社会活動におけるケーススタディを通して、リーダーシップが何なのかを学生たちと共に追求する。その中で彼が繰り返し言及した「Agency」、社会学用語で日本語訳は「行為主体性」と言うが、この概念は日本の一般社会ではほとんど触れられていない。そして彼の言うAgencyの意味は、社会学で一般的に言われるそれとも少し異なり、独自の解釈が含まれる:【ある人間が、様々な選択肢の中から、熟慮の上、主体的に一つの選択肢を選ぶことのできる、心のキャパシティ】。そして、その一人一人のAgencyを呼び覚ますことこそが、真のリーダーシップだと説くのだ。 こと、日本においては、ブラック企業による激務やパワーハラスメントが、労働者の精神を蝕んで久しい。Z世代の若者たちと管理職との世代格差が原因で、若手職員の早期離職なども問題となっている。しかし、もしも中間管理職以上の職員がこのAgency理論を理解して、異なる世代に属する部下や若手と接して仕事を行うことができたならば、彼らの職務に対する誇りを呼び覚ましながら、強固なチームワークで組織のミッションに臨むことができるのではないだろうか? 今回は、2年間のHKSでの学びの総括の意味も込め、ガンツ先生の提唱するAgencyとLeadership理論が、日本社会の労働環境において実用可能なものか、その道筋を検討する。

第二講演

第213回 講演会

日時: 2024年3月16日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E52-164
特別講演 「少子超高齢に伴う「Huge Mismatch」の処方箋 医療機関は診断+治療から課題解決を通じた価値創造の場に」

中川 敦寛 氏

東北大学病院 教授(産学連携室 EDAS)


日本は今後 40 年で大きな社会変化に直面し、「超高齢社会」に伴い、必要な医療資源の大幅な増加と、「少子化社会」による利用可能な社会・医療資源の大幅な減少という「大きなミスマッチ」を解決しなければならない。さらには、人生100年時代で、健康寿命を延伸するために、医療機関は、従来の「診断+治療」だけでなく、健康・予防から治療後に至るまで、ひとりひとりの健康全体(Health Continuum)にコミットすることが求められる。 東北大学病院は、2014年よりアカデミックサイエンスユニット(ASU)を、2020年にはオープンベッドラボを設立し、企業の研究開発者に対して医療現場を開放し、医療従事者とともに事業化に資する課題探索かプロトタイプのテストを6か月のプログラムとして提供してきた(10年間で 61 社、1,600 名を超える開発研究者を受け入れ)。2019年よりスマートホスピタルプロジェクトとして、産学連携室、デザインチームを設立し、企業とのコクリエーションにより、医療現場から広くは社会の課題を解決し、質の高い医療ヘルスケアを持続的に提供につながる事業創出に関わってきた。事業化に資する課題の探索からスケーリングまでの全体をデザイン(holistic Design)できる人材に関するニーズが明らかとなり、デザインヘッドの教育も行っている。 病院が、社会インフラとしての新たな機能、スペシャリスト、ノウハウを持ち合わせることで、臨床、研究だけでなく、新しい機器、ソリューションの開発から始まり、医療現場の課題解決、イノベーションを通じた社会課題やHuge Mismatchの解決に貢献する場となることを目指す東北大学病院の取り組みについて紹介する。質疑応答では、コクリエーションパートナー企業、当院のインターンも参加し、医療機関が果たせる可能性についてディスカッションする。

第一講演

第212回 講演会

日時: 2024年2月17日(土) 16:30-18:30
会場: MIT E52-164
「東アジアの安全保障 ~国際政治リアリズム理論とトゥキュディデスの罠における『非共感』比較~」

伊藤 聡 氏

Harvard University, Weatherhead Center for International Affairs, Program on US-Japan relations


現在ウクライナ-ロシア、イスラエル-パレスチナで凄惨な戦争が勃発している。日本人の世論調査では「台湾有事」懸念が高まり、ハーバード・ケネディスクールのグラハム・アリソン教授も「米中戦争」への警鐘を鳴らしている。国家はなぜ戦争するのか。国際政治のリアリズム理論は「Threat(脅威)」認識の高まりが、戦争や同盟の動機になると説明する。しかしどんな場合に国家が戦争、同盟、中立等を選ぶかについて、「Threat」認識だけでは十分に説明できない。本研究では「Threat」に加え、相手国に対する「Unsympathy(非共感)」感情が加わると、戦争を起こす可能性が高まることを指摘する。国家間のUnsympathyの度合いは、人種、宗教、歴史、文化、政治・経済体制、慣習や、それらから導き出される国家戦略等の要素がどの程度異なるかによって、ある程度測定できると考える。したがってUnsympathyを低減させる戦略的方法が考案可能であり、それを実行することで、戦争勃発の可能性を低減できると主張する。

第一講演
「ゲノミクスからみるがん免疫治療」

辻 淳子 氏

Cancer Program, Broad Institute of MIT and Harvard


がんの原因となるような異常な細胞は、健康な人の体でも毎日数百から数千個も発生するといわれています。通常そのような細胞は、免疫の働きによって排除されますが、老化による免疫力の低下や免疫細胞の認識ミスなどによって生き残った異常細胞が増殖し、がん化します。近年のゲノミクス技術の進展により、変異してしまった標的遺伝子やタンパク質を、特定のがんの種類はおろか、個人のがんゲノムのレベルで検出できるようになりました。本講演では1人のがんゲノム情報から、どのようにして「がんと戦う武器」をデザインしていくのか、がんを標的とするワクチンや人工的にプログラムされた免疫細胞療法を例にお話しします。

第二講演