January 26, 2010

2009年11月7日山本南海子さん発表まとめ

Filed under: Uncategorized — from2001 @ 3:05 am

YamamotoNamiko PDF版はこちら

山本南海子さん講演・2009/12/12


炭とダイヤモンドが同じ炭素からできているのは良く知られた事実ですが、炭素はそれ以外にも様々な面白い形をとります。髪の毛の1万分の1ほどの太さの管・カーボンナノチューブがその一例です。その強さ、しなやかさや高い熱・電気伝導性から、現在大きな注目を集めている新素材です。12月の研究者交流会の二本目の講演では、マサチューセッツ工科大学航空宇宙工学科・博士課程の山本南海子さんに、このカーボンナノチューブについてお話ししていただきました。

カーボンナノチューブは、1991年にNECの飯島澄男氏の論文をきっかけに注目を集めはじめた、比較的新しい素材です。図1のように、蜂の巣状に規則正しく並んだ炭素原子が筒状の構造を形成しています。ただし、太さが10ナノメートル(1ミリの100万分の1)ほどしかないため、その構造は電子顕微鏡を使わなければ見ることができません。数億本を集めてやっと、ペニー硬貨と比べられる大きさになります。見た目は炭のような黒色をしています。

カーボンナノチューブが大きな注目を集めているのは、様々な面で理想的な性質を持っているからです。とりわけその強さと軽さは大きな魅力です。カーボンナノチューブは、同じ重さの鉄と比べて100倍以上の力に耐えることができます。また、非金属であるにもかかわらず、金属よりもよく熱や電気を通します。カーボンナノチューブの発見以来、このような性質を生かした夢のような応用がいくつも提唱されてきました。例えば「宇宙エレベーター」です。地球と静止軌道の間に高さ36,000kmのエレベーターを作って、ロケットを使わずに宇宙に行けるようにしよう、という構想です。しかし、鉄やアルミニウムなどの従来の材料では強度が全く足りず、36,000kmの長さのケーブルを宇宙からぶら下げると、ケーブルは自分自身の重さで切れてしまいます。宇宙エレベーターという夢のような技術は、軽く強いカーボンナノチューブによって初めて理論的に可能になるのです。

しかし、山本さんの目は、夢ではなく、冷静に現実を見ていました。現在の技術ではカーボンナノチューブの長さは2cm程度が限界です。36,000kmのチューブを作るなど現実的ではありません。しかも、カーボンナノチューブの製造コストは非常に高く、市場価格は1kgあたり1万円程度で、世界の年間生産量は250トン程度しかありません。一方、大量生産に適した鋼鉄は値段が1kgあたり100円程度、年間生産量は10億トンにも上ります。いくらカーボンナノチューブが夢のような性質を持っていても、鉄などの既存の材料を代替することは現実的ではないのです。そして、たとえその技術の夢のような応用が理論的には可能でも、経済的な現実性が乏しければ、それは世の中の役に立つことができないのです。

そこで山本さんたちの研究グループは、希少なカーボンナノチューブを単体で用いるのではなく、ご飯にふりかけをまぶして味を加えるように、既存の材料に僅かな量のカーボンナノチューブを、整列した状態で組み込むことでその性能を向上させることを考えました。彼女たちがとりわけ注目しているのが、複合材料への応用です。複合材料とは、炭素繊維やガラス繊維でできた薄い板を地層のように積み重ねて作られる比較的新しい材料で、テニスラケットや航空機の構造部材として広く使われ始めています。しかし、層と層が簡単に剥がれてしまうことや、電気・熱を通しにくいことが欠点でした。そこで彼女たちの研究グループは、カーボンナノチューブを複合材料の層と層の間に釘のように打ち込んで剥離を防ぐNano-stitching(stitch = 縫う)という技術や、繊維の表面にカーボンナノチューブを毛のように生やすことで繊維間の熱・電気伝導性を向上させるFuzzy-fiber Reinforced Plastics(fuzzy = 毛羽立った)という技術を開発しました。これらの技術を用いれば、ほんの僅かな量のカーボンナノチューブで複合材料の欠点を克服し、飛行機の安全性を高めることができるのです。

山本さんの話からは、面白い技術を開発するだけではなく、それを人間の社会に役に立てなければいけないのだという、エンジニアとしての強い責任感を感じました。たとえある技術が理論的には夢のような可能性を持っていたとしても、経済的なフィージビリティーを無視すれば、夢は夢のままで終わってしまうのです。アメリカの大学では、企業と組んで研究を行う、いわゆる「産学連携」が当たり前になっているため、技術を使う立場からのフィードバックが常にあります。実現可能性を意識しながら研究が行われる環境が整っているのです。

エンジニアの仕事は夢を見ることではありません。夢を現実にすることです。そのことを改めて気づかされた講演でした。

(文責:小野雅裕)

——————–
山本南海子

2004年、MIT航空宇宙工学科にて学士号を取得。2006年に同修士号。現在は博士課程に在籍中。Prof. Brian L. Wardleの元で、カーボンナノチューブの航空宇宙工学への応用について研究している。

No Comments »

No comments yet.

RSS feed for comments on this post. TrackBack URI

Leave a comment

Copyright (C) 2009 Boston Japanese Researchers Forum
HTML convert time: 0.696 sec. Powered by WordPress ME