ボストン日本人研究者交流会

2009年 発表テーマ

最近のエネルギー情勢とその対応

武尾伸隆
MPA candidates, Harvard Kennedy School. Ministry of Economy, Trade and Industry

皆さんは、”エネルギー”と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
まずは、直近まで高騰が続いた原油価格の影響により、ガソリン代や航空チケットが高くなったことなどを思い浮かべるのではないかと思います。
現在の私たちの暮らしや社会はエネルギーと切り離すことができません。日常生活に限らず、あらゆる製品の製造工程や輸送など直接的・間接的にあらゆる経 済活動でエネルギーは消費されております。また、国の経済活動に不可欠なものであるからこそ、それが国際紛争の原因にもなりえます。
さらには、地球温暖化問題もエネルギー政策と表裏一体の関係にあります。温室効果ガスのほとんどはエネルギーの消費の結果生まれるためです。
このように様々な分野に影響を及ぼすエネルギーですが、現在どのような状況になっており、今後それがどのように進展するのでしょうか。
そして、その中で資源を持たない日本はどのような対応を取っていくべきでしょうか。これらの問いに対して、エネルギー行政の経験を踏まえて、お話をさせていただきたいと思います。
Teach for Japan ~ Educational Entrepreneurの可能性

松田悠介
EdM. Candidate, 2009, Harvard Graduate School of Education, 元体育教師

御子柴高視
MBA Candidate, 2009, Tuck School of Business at Dartmouth, 元ヴァーテックス・ソリューションズ・インク

日本の教育の質の低下が叫ばれて久しい現在、皆様はご自分のお子様を安心して日本の教育システムに預けることはできますか?
近年、日本は教育格差の拡大や、OECDの学習到達度調査結果の国際順位の下降など、学力面だけでも様々な問題に直面しています。それにも関わらず、ゆと り教育の導入とその撤回など、教育政策は迷走を続け、さらに教員の質の低下も大きな問題となりつつあります。これらの諸問題を解決する突破口となるべく、 私が関わっている、Teach For America (TFA)という制度を日本へ導入する試みについて、ご紹介させて頂きます。
教育の質の向上で一番重要なのは、最終的には「人」(教員)です。日本の未来を背負う子供たちを育てるという重要な役割を考えれば、教育の世界には、医 療や法律と同様に、優秀な人材が集まっても良いはずです。しかし、果たして日本は優秀な人材を教育の世界に集めることはできているでしょうか?
アメリカでは教育格差の問題が深刻であり、質の高い教員を全ての学校に配置する事が教育格差を縮める最善の策だと考えられています。その中で注目を集めているのが、1990年にNPOとして設立されたTeach for America(TFA)です。TFAとは、大学を卒業したての優秀な人材を、貧困や学力低下が深刻な地域・学校に派遣し、教育問題に現場レベルで取り組んでもらうプログラムです。参加者の約半数がHarvard, Yale, Columbia, Princetonなどの名門大学出身者で占められ、ビジネスウィークが発表している人気就職ランキングでは常に10位以内に位置しています。TFAは、優秀な人材を教育の現場に集め、同時に教育格差を是正するという、大きな役割を果たしているのです。
今回の講演では、TFAの概要を説明した後、このプログラムが日本に適応可能なのかを検証した結果を紹介します。議論を通して皆さんからもご意見をいただければと思います。
「心不全をめぐる冒険~循環器医の心不全への取り組み~」

加藤真帆人
Brigham and Women’s Hospital
Harvard Medical School

皆さんは「心不全;Heart Failure」と聞いてどんな病気を思い浮かべるでしょうか?

最近、至る所に設置されたAED(自動体外式除細動器)を目にされた方も多いと思いますが、これは死に至る「不整脈」を治療する機械です。また、今年の東 京都民マラソンで突然意識不明になった日本のコメディアンは「心筋梗塞」であったと報道されています。「心不全」とは、それらがたどっていく心臓病の終末 像であると考えられてきました。

一方「心不全」治療は、16世紀、水銀を使っていた時代から、1980年代の薬物治療における大転換期を経て、近年では科学技術の進歩とともにペースメー カーをはじめとした様々な精密医療機器の発達に支えられ、そして現在、心臓移植、そして人工心臓など、心臓をすっかり取り替えてしまうといった医療もなさ れています。

また、いかにして心臓病を防ぐのかといった研究も多くなされ、それは「心不全」の定義そのものをも変化させてきました。

今回は、我々、循環器医たちがさまよいながらがたどってきた「心不全をめぐる冒険」をお話ししたいと思います。

「医療裁判の現状~裁判官はいかにして医学専門的知見を取り入れているのか~」

志村由貴
Visiting Scholar, Notre Dame Law School
さいたま地方裁判所判事補

昨今、日本では、医療事故や医療ミスの裁判が度々ニュースで取り上げられ、話題になっています。数ある民事訴訟の中でも、医療過誤訴訟の特徴は、審理・判 断にあたって、医学的な知識や経験則を要するところにあります。しかし、裁判官も、当事者を代理する弁護士も、ほとんどが法学部等の文系の学部の出身者で す。では、どのようにして審理・判断が行われているのでしょうか?

医療過誤訴訟には、裁判に必要な医学的知識・経験則を裁判官や弁護士に複数の専門家が関与しています。鑑定人、私的鑑定人、専門委員、あるいは協力医と呼 ばれる人々です。これらの専門家の協力なしには、充実した審理・適切な判断を行うことはできません。医療過誤訴訟を改善するには、専門家の協力をいかに得 るかを考えていく必要があります。

そこで、今回は、医療過誤訴訟の手続・判断の基準を簡単に説明した後、専門的知見を取り入れるために昨今行われている様々な取り組みについてご紹介し、皆さんからのご意見をいただければと思います。
開発援助は役に立っているか?
~ボスニア・ヘルツェゴビナ、タンザニアの事例から~


室谷 龍太郎/老川 武志
MPP/MPA candidates, Harvard Kennedy School
Japan International Cooperation Agency (JICA)

「政府開発援助(ODA)」という言葉には皆さんどのような印象をお持ちでしょうか?

「平和国家としての国際的な義務」「日本の外交の重要なツール」「本当に貧しい人に届いているの?」「現場がどうなっているのかが不透明」などなど、様々なご意見があるかと思います。

各界を見渡しても、ジェフリーサックスやU2ボノのように「もっと援助を増やせ!」と叫ぶ人もいれば、「ODAが諸悪の根源だ」と主張する経済学者も少なからずいます。

今回の発表では、ボスニア・ヘルツェゴビナの日本大使館、タンザニアのJICA事務所において実際にODAの企画・実施に携わった2人の発表により、開発援助に関する様々な論点をフィールドでの事例にもとづいて議論したいと思います。

実のところ、、、発表者2人の間でもODAに対する考え方は完全に一致してはいません。そのため発表の一部は2人によるディベート形式で行いたいと思います。

今後この分野では研究者やエンジニアの方々などを含めた幅広い層の皆さんと協力させていただく必要性が大いにあると感じており、当日多くの方と議論ができることを楽しみにしております。

妊婦を取り巻く臨床心理のかかわり(産婦人科医、臨床心理士の合同発表)

岸本早苗
Research Manager, Institute for Professionalism & Ethical Practice, Children’s Hospital Boston
ハーバード公衆衛生大学院(2008年卒) 臨床心理士

吉田穂波
ハーバード公衆衛生大学院
元ウィンズ・ウェルネス銀座クリック 産婦人科医

産婦人科、出産にまつわる皆さんのイメージはどのようなものでしょう?「お産は病気ではないのだから」といわれますが、妊娠、出産は様々な変化やリスクと隣あわせです。

産 婦人科医の役割として、異常経過を予知し、対処をし、胎児に異常がなければ、これまで母体の精神面心理面は見逃されがちでした。心理面での不安をくみとる 医師向けのトレーニングはなく、現場ではなかなかそこまで対応できないのが現状です。産科で働く心理士は、産科と精神科のリエゾンのような役割を担い、妊 娠から出産後にいたるまで、患者の心理面の支援をしています。

今回の発表では、妊娠に伴っておこる体と心の変化やその対応、医師や心理士がどのようにチームで働いているのか等について、事例も用いながらお伝えし、皆さんと議論できればと思います。男性の皆さんにもぜひきていただき、女性への理解を深めていただければと思います。
「記憶したときに脳において何が起きているのだろう?」

上田  善文
RIKEN-MIT Neuroscience Research Center
The Picower Institute for Learning and Memory Department of Brain and Cognitive Sciences Massachusetts Institute of Technology

皆さんが、最近見た美しい風景はどんなところでしょうか?ナイアガラの滝?いやいや、ボストンの町並み?皆さん、なんらかの答えを持っているはずで す。これら、感動とともに記憶したことは、みなさんの脳裏に焼きついて、しばらくの間、忘れないでしょう。それでは、記憶する過程で皆さんの脳の中では何 が起きているのでしょうか?

脳は、1000億個の神経細胞の集合体です。これら膨大な数の神経細胞は、ネットワークを構築し互いに連絡を取り合っています。ですので、これらの神経細胞達が、何かを記憶する際に何らかの質的変化を起しているのでしょう。

今回の発表においては、神経細胞において、記憶する前と記憶した後での質的変化とは、一体何なのか?また、どこまでわかっているのか?とい うことを、発表者が日々行っている研究を通して、また、近年明らかになった事実などを含めてわかりやすく話していきたいと考えています。

「東アジアにおける科学技術活動のもつ安全保障上の意味」

山本  武彦
Research Fellow, Belfer Center for Science and International Affairs at the John F. Kennedy School of Government, Harvard University
早稲田大学政治経済学術院教授

―日米関係の枠組みのなかで―
科学技術の発展は、一面で持続的経済成長を促す要因となり、他面で国家の安全保障や国際安全保障のあり方に重要な変化を及ぼす要因となってきた。言い換 えれば、日進月歩の勢いで進む科学技術活動は、人間生活の進歩にとって欠かす事の出来ない成果を生み出すと同時に、大量破壊兵器や高度通常兵器の技術革新 を促すという二面性を常に纏う。こうした二面性を前提にして国々の政策決定者は、科学技術が宿命として抱える国家安全保障と国際安全保障の契機を意識しな がら自国の科学技術政策の策定に勤しむ。

どの国家も自国の与件を前提にして安全保障政策を策定するが、自国の生存に関る地戦略を次のような公式にしたがって描き出し、そしてそれぞれの国情に応じて自国の地戦略的利益を追求してきた。

地戦略(geo-strategy)=地政学(geo-politics)+地経学(geo-economics)

問題は、このような公式に科学技術活動がどのような影響を及ぼすかである。結論を先取りしていえば、科学技術活動は地政学と地経学を接続する媒介変数とし ての意味をもち、政府は自国の国益のためにこれを「囲い込む」誘惑に駆られる。すなわち、地技学(geo-science and technology)的な意味づけを与えてしまう。 わけても軍事科学や軍事技術の最先端分野の研究は、自国の地政学的利益を確保するためにその内容は秘匿対象とされる。しかも、これらの科学技術活動のほと んどは民生目的をも共時的に追求する。いわば、軍事・民生両用の科学技術活動として展開される。最先端の研究であればあるほど、それらは国家安全保障上の 目的と国際競争力維持の目的から研究内容は秘匿対象となる。

このような問題意識から、アメリカが1980年代以降、現在に至るまでに一貫して追求してきた地技学アプローチが、日米関係の枠組みのなかでどのように作動し、時には対立の局面を彩り、ときには協調の力学を生み出してきたか、その赤裸々な実相を描き出す。
「プライベート・エクイティ投資の現状と展望 ~日本を蝕むハゲタカか、それとも…」

奥野  慎太郎
MBA candidate, MIT Sloan School of Management
Bain & Company, Inc.

「投資ファンド」という言葉から、皆さんは何を想像されるでしょうか?

「ハゲタカ」「胡散臭い」など、ネガティブな印象を抱かれて いる方も多いのではないでしょうか。確かに、昨年のある講演で「影の銀行システム」と表現されたこともあるように、なかなか実態が掴みづらい存在であるこ とは事実でしょう。また、日本の一部のマスコミの論調が、こうしたファンドに対する懐疑的な見方を助長している側面もあるように思われます。

し かしながら米国では、投資ファンドは良くも悪くも経済の仕組みに不可欠な存在となっており、また日本の経済においても、特にバブル崩壊以降確実に存在感を 増しています。ダイエー、三菱自動車、三洋電機、東京ドーム、西武鉄道、サッポロ、あおぞら銀行、日刊工業新聞などなど、いずれもこうしたファンドの投資 を受けています。皆さんのお金も、間接的に彼らの資金源となっていたり、彼らの投資行動の影響を受けたりしています。また日本の企業活動においても、今後 彼らとどのように付き合ってゆくかが、大きな戦略上の課題であるといえるでしょう。企業派遣でいらしている皆さんの会社が、突然投資ファンドの買収提案を 受ける、ということも十分にあり得ます。

今回は、そうした投資ファンドの中でも、プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)に注目し、投資の基本的な仕組みから、日本における現状と今後の可能性について、データと具体例を交えながらご紹介してみたいと思います。
「ハッカーになろう」

山口 征浩
MIT Advanced Study Program

ある特定の技術に精通し、困難な課題に対して最小限の手間で最大の効果を生み出す人々のことを敬意をこめてハッカーと呼びます。

インターネットの世界における実際のハッキング手法やコンピューターウィルスの動作を例にとって、ハッカー的思考を一緒に学びましょう。プログラムやネットワークの知識がない方にも理解して楽しんでいただけるように解説いたします。

こんな単純な方法で、こんなことができるんだってびっくりすると思います。でも、テクノロジーって意外とそういうものなのかもしれないと思います。

ハッカーには一夜にしてなることはできません。ただ、ちょっとした発想の転換がハッカーへの道につながっているかもしれません。

私はあるコンピューターウィルスの美しさ(?)に魅かれたのがきっかけでコンピューターに関して深く勉強するようになり、ハッカー達と一緒にコンピューターセキュリティーの技術開発に携わってました。

コンピューターの世界でのハッキングのアイデアから皆様の研究に役立つ新たな発想が生まれ、皆様の研究分野におけるハッキングのお力になれれば幸いです。

「日常の謎~社会に潜む因果関係を探る応用経済学の事件簿」

石瀬 寛和
ボストン大学経済学部博士課程

「大相撲での八百長の証拠はあるの?」「少人数学級だとテストの点数はどれくらい上がるの?」「東大を出るとどれくらい出世しやすくなるの?」「発展途上国の子供が学校に行くようするにはどうしたらいいの?」「ヨーロッパの人はなぜあまり働かないの?」

こ れらは全て経済学で扱われる問題です。経済学は人間行動と社会に関わる幅広い問題を対象とした学問で、理論的に人々の行動と社会の状態を整理し、データを 使って数量的な答えを出す分析手法の体系とも言えます。従って、その対象には私達の日常生活でふと抱くような疑問から、政府の意思決定に関わるものまで含 まれます。

こうした疑問の多くは実際に「どれくらい」という数量的な因果関係の特定が、人々、企業、政府等の意思決定にとって重要です。 しかし、数量的に因果関係を特定するのは簡単ではありません。ともすれば、私たちは発表される統計の見た目によって、惑わされてしまいがちなのです。

今 回の発表では「統計を見たときに私たちが気をつけるべきことは何か」「なぜ数量的な答えを出すのは難しいのか」そして「数量的に因果関係を特定するために どのようなデータが必要で、それに加えて経済学が行っている工夫はどういうものか」について、冒頭に挙げた謎を解きながらお話したいと思います。

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